入居の目的をはっきりさせる

老人ホームに入居するまでにはさまざまな流れと手続きがあります。まず最初に必要なことは入居の目的を明確にすること。「高い、安い」と料金に一喜一憂する前に、なぜ今ホームに入居する必要があるのかを明確にすることから自分に見合ったホーム探しが始まります。

「住宅型」と「介護型」がある

ホームには大きく分けて、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの「住宅型」と特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームなどの「介護型」があります。

介護や医療が必要かどうか

住宅型は本来、自立していて身の回りのことができる高齢者が対象ですが、介護が必要になった際には介護型に移行可能なホームもあります。 介護が必要な場合や認知症があれば介護型を選択しますが、医療的処置が必要なら医療体制の充実もホーム選びのポイントになります。 住宅型、介護型のどちらがマッチするのか。入居の目的を明確にしたうえで見極めることが大切です。

予算の目安を立てる

入居するホームを決める際に最初に確認すべきなのはお金の事情です。仮に100歳まで生きるとして余命を計算し、何年住むのかを考えたうえで生活設計を立ててみましょう。

月々支払い可能額を算出

今ある資産や月々の収入を書き出し、それらを計算式にあてはめて、ホーム入居の資金計画を立てます。現在の資産からホームの一時金を引き、入院など緊急時の出費のための予備費200万円(予備費は個人の状況に応じて、心配事が多い方は高めの金額に設定)を引いて、100歳までの余命で割ります。これが1年間に使えるお金です。これを12カ月で割り、月々の収入額を足したものが月々支払い可能額です。

条件の優先順位を決める

老人ホーム選びの際に、入居する本人と家族の問できちんと確認しておくべきなのは、立地条件や生活、医療・介護、交流などにおいて、それぞれに「譲れない条件」です。

本人と家族の「譲れない条件」を列挙

本人が譲れない条件と、家族が譲れない条件を区別して列挙しておきましょう。ほかにも追加すべき条件があれば「その他」に追加してもかまいません。本人の判断力が低下している場合には、本人の立場になって想定してみましょう。

こだわりの優先度

たとえば立地条件では、本人の条件は「現在の生活圏内か、それに近いところ」についた一方で、家族の条件は「家族の暮らす自宅の近辺」があるかもしれません。それぞれが譲れないポイントをチェックし確認することで、本人と家族それぞれの「こだわり」や「大切なこと」が見えてきます。優先度の高いものから順位も記入してみましょう。

わかっているようでわかっていない本人の気持ちを理解し、対話を重ねながら、候補となるホームの選択肢を絞っていきましょう。

情報を集めて候補の施設を絞り込む

高齢者ホーム探しのおもな情報源といえば、(1)インターネットや情報誌、新聞のチラシや広告(2)ホームが配布するパンフレットなどの資料(3)民間の紹介センターです。

自治体のサイト

インターネットで探す場合、行政の公式サイトから多くの情報を得ることができます。市町村など自治体の公式サイトの高齢者向けサービスページに介護保険で入れる施設やケアハウスなどの一覧が掲載されていたり、都道府県の公式サイトでも管轄の有料老人ホームやサ高住の一覧、施設ごとの重要事項説明書をリンクしている場合もあります。

電話応対で施設の雰囲気をつかむ

「希望の自治体名」と「高齢者ホーム」という言葉を組み合わせてヤフーやグーグルでネット検索を行うと、民間の紹介センターが運営するウェブサイトが多数ヒットします。一括で資料請求ができたり、希望すればめぼしい施設の紹介や案内をしてくれたりします。ですが、民間会社であるため必ずしも中立とはいえず、紹介先も営業的に偏りのある場合が多くなります。できるだけ直接施設に電話して見学のアポイントをとるといいでしょう。電話応対一つでも、施設の雰囲気を察知できます。

現実的な数字が掲載された重要事項説明書

施設に資料請求をする際には、重要事項説明書も併せて請求するといいでしょう。パンフレットのほかに、現実的な数字が掲載された重要事項説明書があれば、ホームの実情を読み解くのに役立ちます。

実際に見学に行ってみる

しぼり込んだホームについて、本人と家族で意見がまとまったら、いよいよ見学です。できるだけホームに直接電話をして、見学の予約を入れましょう。職員の電話対応でもホームの良しあしがわかります。

「昼の12時ごろ」がベスト

見学の時間帯を選べるのなら「昼の12時ごろ」を指定します。可能であれば昼ご飯の試食もさせてもらいましょう。ランチタイムは食堂に入居者が一堂に集まってくるので、入居者の男女比や心身状況、食事介助の様子、職員と入居者の話し声など普段の生活の様子を観察することができます。さらに当日、施設長やケアマネジャーと話ができるかどうかもきいてみましょう。

入居者、職員の表情をチェック

複数の視点で見学できるとより的確に判断できるため、なるべく本人と家族の複数人での見学をおすすめします。昼ご飯の試食の際にもメニューや味の評価だけでなく、周囲の雰囲気や入居者、職員の表情、服装などもしっかり観察しましょう。本人が男性の場合、入居者の男女の割合で女性の比率があまり高いところだと入居後に人間関係で気苦労しやすいため、男女比も大事なチェックポイントです。

異臭がないか

ランチタイム後は通常、ホーム内を施設長やケアマネジャーが案内してくれます。ここであらかじめリストアップしておいた疑問点などを質問しましょう。五感を働かせながら、館内に染みついた異臭などもないか、とくに介護度の重い入居者の多いホームでは気にしながら見学しましょう。

入居者や家族の口コミ、評判

入居検討にあたり、実際にホームに入居している知人や友人、その家族などによるロコミ情報や評判、体験入居による情報も役立ちます。いろいろな情報を入手してホームをチェックしましょう。

体験入居をしてみる

いくつかのホーム見学を終えて、本人と家族で納得できる施設があれば、ぜひ体験入居をしてみましょう。

1泊でなく1週間

ほとんどの有料老人ホームで体験入居を受け入れていますので、ホームに確認し、申し込みます。できれば1泊でなく1週間ほど試してみるのがおすすめです。ホームとの相性の良しあしがわかり、資料や見学だけではわからなかった新たな発見があるかもしれません。

職員の接し方、言葉づかい

また、体験入居では普段の生活を送るなかで、入居者や職員とコミュニケーションをとりやすいかどうか、職員の接し方、言葉づかい、「△△さん」「××様」といった名前の呼び方なども自分に合うかどうかを確かめることができます。

行動の制限を感じないか

介護型の場合は、外出した際に職員に戻りの時間を聞かれるなど、介護度が低く、自分で散歩に行ける人などにとっては行動の制限と感じることもあります。好みの生活ができるかどうか、よく確認しましょう。

本人の介護度が重い場合には、体験入居を経て、問題がなければ自宅に戻らずに入居に移行可能な場合も多いです。

特養は「ショートステイ」でお試し

特別養護老人ホームなど介護保険で入れる施設の場合は、体験入居という考え方がありません。体験してみたい場合は、担当のケアマネジャーに相談して介護保険の居宅サービスの一つである「ショートステイ」を利用してみましょう。ショートステイは在宅の間、何度も利用できるため、たびたび利用することでホームに慣れ、職員とも顔なじみになることができます。必ずとは言えませんが、これにより入居待機者として登録をしている場合に入居の優先順位が高まることもあるようです。

有料老人ホームなどでもショートステイが可能な場合がありますので、ホームに確認してみましょう。

入居先を決めて契約成立

面談

入居先を決めたら、申請書と介護保険証の写しなどの必要書類をホームに提出します。ホームと契約を交わす前に、そのホームで生活することが可能かどうかの面談がおこなわれます。面談もせずに入居を急かすところは良いホームではないので注意が必要です。入居する側、ホーム側の双方がしっかり手続きを踏んで契約することが重要です。

申込金として10万円程度を支払う場合も

有料老人ホームなどでは、入居契約の前に希望の居室をおさえるための「入居申し込み」が必要なところもあります。その場合は通常、申込金として10万円程度を支払います。キャンセルした場合には返金されますが、念のため確認しておくことが必要です。

審査の後に契約締結

面談の結果を踏まえ、そのホームでの生活が可能か審査され、可能だと判断されれば具体的な入居日を決定したうえでいよいよ契約です。契約日には、重要事項についての説明を受け、それに同意すれば、契約書に署名・捺印して、契約締結となります。

クーリングオフ期限を確認しよう

入居の契約の際には入居一時金を支払いますが、入居後90日以内であれば「クーリングオフ」が申請できます。入居一時金を支払うときに制度の有無を必ず確認しましょう。とくに介護型のホームに入居する場合は、必要にせまられて入ることが多く、いつがクーリングオフ期限の90日目に当たるのかなどを未確認のまま見過ごしてしまう可能性もあります。契約時に必ず期限日を確認しましょう。(畑祐一郎