1991年10月「有料老人ホームの選び方」

老後の生活の場として、民間の有料老人ホームを選ぶ人が増えています。万が一のときには介護を受けられるので子どもや孫たちに遠慮する必要がなく、施設も豪華で自立した老後を楽しめるという考え方が広まってきたためのようです。しかし、入居時に払う一時金が非常に高額で、そのうえ医療介護の内容もさまざまです。老後の「大きな買い物」に失敗しないための、チェックポイントをまとめてみました。

5年前から倍増

全国にある有料老人ホームの数は、1990年10月現在で209カ所、定員約2万人。5年前のざっと2倍だ。

最近は保険、鉄鋼、建設、不動産などの大手企業が「シルバービジネスの中核になる」とみて、子会社を作るなどして経営に乗り出すケースが多くなっている。

数が急増するにつれ、入居したお年寄りとの間で、事前の説明とサービスの内容がくい違う、といったトラブルも増えている。

最も多いのが、介護、健康管理など医療サービスに関するトラブルや苦情。9割以上のホームが医療サービスを提供するために、病院、診療所を併設したり、外部の病院と協力態勢をとっている。しかし、中身は日常生活の補助程度の介護から、起き上がるのもむずかしくなった場合の介護、いわゆる終末ケアまで、かなりの差がある。

体験入居をぜひ

一般的には、ホーム内に併設する形で病院や診療所がある方が、態勢が整っているといえる。提携病院や協力病院があることをPRするホームがあるが、医療法人が経営するホームを除けば、提携や協力の中身がはっきりしないところが多い。

こうしたサービスの内容をつかむためには、ホームから説明を聞くだけでなく、体験入居をしてみるのが一番。ほとんどのホームで、食事つき、1泊5000-6000円の費用で、数日間の体験入居ができる。体験入居をさせないところは、敬遠した方が無難だ。

退去時に返還金

入居するには、個人または夫婦2人が入居金を支払って、専用の個室と食堂など共用施設の終身利用権を確保する、というシステムが普通だ。入居金の平均は、国民生活センターの調べで単身2670万円、2人で4150万円。

個室を買いとるわけではなく、利用権は売買したり、子供に相続させることはできない。また入居後も、月々管理費や食費を支払わないといけないから、手もとにかなりの資金の余裕がないと入居できない。

ちなみに、公設の軽費老人ホームは入居金不要、月々の費用は所得に応じて5万8000円から14万6000円台まで。

「終身利用権」とはいえ、ホームによっては重度の病気や老人性痴呆症(ちほうしょう)になったとき、介護料を別払いしたり、退去を求められたりするところがある。また、入ってみたものの、気に入らず退去ということも考えられるから、契約解除時の規定も調べておきたい。

通常、契約解除時には入居していた期間に応じて、入居金の一部が返還される。一定の期間(5-15年)を過ぎると、入居金が返ってこないところや、返還についての規定がないところもある。

経営は健全か

何千万円という大金をはたいて、老後の生活を託すのだから、ホームの経営が健全かどうかは重要なポイントだ。

1989年秋には、滋賀県内のホームの経営が悪化し、経営陣が交代する騒ぎが起きた。最近では、医療コンサルタント・グループが運営する兵庫県西宮市のホームが、不渡り手形を出すなどして問題になっている。

厚生省は有料老人ホームの経営の健全化を進める考えで、1991年4月から老人福祉法を改正した。これに伴い、ホームの設置運営指導指針を一新したほか、「全国有料老人ホーム協会」を組織した。

協会に加盟しているところは、一応経営はたしかだと考えられる。入居者の苦情、トラブルは全国有料老人ホーム協会の事務局が受けつけている。これから入居したい人は入居相談窓口で情報を得られる。

また、倒産という最悪の事態に備えて、協会加盟のホームでは新たな入居者1人につき20万円を支払って、基金を作ることになった。万一の場合には、1人当たり500万円の保障金が受け取れる仕組みだ。

有料老人ホーム

国や地方自治体が費用を助成する「特別養護老人ホーム」や「軽費老人ホーム」などの公的福祉施設とは違い、利用者の費用負担によって運営する純民営の施設。1980年代以降、急増した。

入居の条件は、健康者に限る、健康者でも介護を必要とする人でもいい、自由に動き回るのがむずかしい人や老人性痴呆の人が対象、などさまざま。終身利用権を買って入居するところがほとんどだが、一部には分譲マンションと同じように、個室を買い取る方式のところもある。

【全国のおもな有料老人ホーム】

(注)原則として、50室以上の規模で介護基準がある施設など、金額は消費税を含まず

施設名
(場所)
入居金
(単身,万円)
管理費+食費
(月間,円)
医療機関との提携
光ハイツ・ヴェラス石山
(札幌市)
1,080~3,050 84,000 併設診療所、提携病院
ローズヴィラ水戸
(茨城県水戸市)
1,870~3,560 120,000 提携病院
サン・ラポール南房総壱番館
(千葉県君津市)
1,890~3,740 95,500 併設診療所、提携病院
パークヴィラ陽春館
(千葉県松戸市)
3,780~4,820 117,800 提携病院、診療所
芙蓉ミオファミリアマンション
(千葉県君津市)
1,280~1,580 80,900 併設病院、提携病院
ラビドール御宿
(千葉県夷隅郡)
3,790~6,020 125,000 併設診療所、提携病院
リッチランド豊南郷
(千葉県船橋市)
2,104~2,645 132,000 提携病院
グリーン東京
(東京都西多摩郡)
2,600~5,800 102,800 併設診療所、提携病院
サンビナス立川
(東京都立川市)
4,582~6,996 131,000 提携病院
申孝園ロータスヴィラ
(東京都江戸川区)
2,120~5,980 101,400 併設診療所、提携病院
八王子同友会
(東京都八王子市)
3,360~4,620 115,000 併設診療所
光が丘パークヴィラ
(東京都練馬区)
3,500~4,278 144,450 併設診療所
ライフニクス高井戸
(東京都杉並区)
8,410~17,490 170,000 提携病院
ロイヤルライフ多摩
(東京都町田市)
4,910~8,680 170,000 提携病院
油壷エデンの園
(神奈川県三浦市)
2,430~4,870 111,000 併設診療所、提携病院
茅ケ崎・太陽の郷
(神奈川県茅ケ崎市)
3,006 121,840 併設診療所、提携病院
長寿園
(神奈川県小田原市)
1,400~4,500 137,200 併設診療所
ビバリー・コート油壷
(神奈川県三浦市)
3,030~8,060 160,000 併設診療所、提携病院
湯河原ゆうゆうの里
(神奈川県足柄下郡)
2,715~4,732 100,350 併設診療所
サンライフ寿
(山梨県東八代郡)
1,120~2,250 91,000 併設病院
ケアハイツ芦原
(福井県坂井郡)
1,480~3,350 88,700 併設診療所、提携病院
浜名湖エデンの園
(静岡県引佐郡)
1,210~3,830 101,000 併設病院
ミソノピア
(愛知県瀬戸市)
2,300~3,500 122,000 提携病院
アクティバ・琵琶
(滋賀県大津市)
2,030~9,570 111,000 併設診療所、提携病院
京都ヴィラ
(京都市)
2,750~5,860 123,000 併設病院、提携病院
大阪ゆうゆうの里
(大阪府守口市)
3,228~5,727 104,000 併設診療所、提携病院
やすらぎの館
(兵庫県伊丹市)
2,000~3,600 110,890 併設診療所、提携病院
松山エデンの園
(愛媛県松山市)
1,420~2,860 92,500 提携病院
ヴィラノーヴァ大谷
(北九州市)
2,050~3,400 100,000 提携病院

1997年7月「有料老人ホーム選びの注意点」

保証にならない協会加盟

有料老人ホームで失敗しないために--契約書類、十分に確認を

高齢少子化が急速に進む中、息子や嫁といった親族に頼らない老後を選択する人が増えている。こうした高齢者を対象にさまざまなシルバーサービスが出現しており、有料老人ホームもその一つ。入居金を支払って、住居と食事、介護などの日常生活サービスを「買う」システムだが、高額の入居金を取りながら、実際に介護が必要になると老人病院に移してしまったり、介護サービスに必要な料金を明示しないなど、パンフレットや広告の「不当表示」も問題になっている。各種調査や入居者の体験から、有料老人ホームの実態とホーム選びのポイントを探ってみた。

高い入居一時金を払って手に入れたはずの「終(つい)のすみか」が、施設の倒産で消えてしまった--。有料老人ホームの倒産は1996年夏、岡山県勝央町の「サンライズ岡山」で現実に起こった。老人福祉法で唯一の事業者団体に定める「全国有料老人ホーム協会」の正会員ホームで、協会に加盟しているからといって「安心」の材料にはならないことも実証した。入居一時金は平均3000万円、高いところで1億円近くにもなるため、土地や家を売り払って用意する人も少なくない。しかし、「終身介護のはずなのに、別の施設に移された」といった苦情もある。大金を払って一生を託す契約だけに、十分な情報収集と慎重な選択が必要だ。契約前のチェックポイントを挙げてみた。

守られていない、説明書の提示

Q:重要事項説明書というのは何ですか。

A:事業主体や施設の概要、入居金、入居金に含まれるサービス、介護サービス内容などを記載した書類で、厚生省が契約前に入居希望者に手渡し、十分な説明を行うよう指導している。しかし、実際は作製すらしていなかったり、渡していないケースも多い。重要事項説明書を見せ、詳細な説明をするよう申し入れること。「ない」と言ったり、提示を嫌がるようなホームは要注意。東京都は独自の条例でさまざまな表示義務を定めているので、東京都内のホーム、あるいは東京都内在住の人は「都条例に基づく表示」を要求しよう。

終身利用でも相部屋介護に

Q:「終身利用型」は居室でずっと介護してもらえるのですか。

A:日常生活が一人でできなくなった場合、どの程度までの介護が、どこで受けられるのかは、最も重要なチェックポイント。「終身利用(同一施設内介護)型」と表示していても、自分の居室で介護が受けられるホームは1割程度で、ホーム内の介護室に移されるのがほとんど。介護室は相部屋が一般的で、10人を超えるケースもある。「特別介護室でお世話します」という場合の「特別」は、特にいい部屋なのではなく、施設側が介護のため特別に用意した部屋という意味。実際は介護室がなく、隣接する病院や老人保健施設に移してしまう施設もあるので、念には念を入れて確認すること。

料金も、入居金に含まれているのか、その都度、介護費を支払うのかは施設によって異なる。介護費を先払いした場合でも、おむつなどの実費はその時々で徴収されるのが普通だ。居室の権利を残したまま、別の場所で介護される場合、その間の食費や管理費はどうなるのかも要確認。

入居金払っても、介護は徴収

Q:入居一時金を支払えば、あとは何の費用もいらないのですか。

A:入居一時金は、居室の一生の家賃にあたるもの。関東近県の96施設をみると、1000万~4000万円のところが8割を占める。施設によって、介護費を入居金の中に含めているところと、別に徴収するところがあるので、入居金に何が含まれているのか、いないのかをしっかり確認する必要がある。また、途中解約の場合、償却分を差し引いて入居金を返す返還金制度があり、施設によって計算式がまちまちなので、よく説明を受けること。

◆厚生省が指導指針で定めた有料老人ホームの類型◆

有料老人ホームの類型 介護を行う場所 専用居室の権利 施設数
終身利用
(同一施設内介護)型
同一施設内 存続 136
終身利用
(提携施設介護)型
提携施設または同一設置者の別施設 存続 17
提携施設移行型 提携施設または同一設置者の別施設 消滅 3
限定介護型 契約上定めがない・解約 消滅
(契約内容以上の介護が必要になった場合)
14
健康型 契約上定めがない・解約 消滅 75
介護専用型 同一施設内 存続 35